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皆様からのご支援のおかげで、約2か月という期間でクラウドファンディングの目標金額を達成することができました。心から感謝申し上げます。本当にありがとうございました。皆様がそれぞれに大変な思いをされている中で、このように200名近いご支援様からの応援を頂いたことは、しっかりと研究を進めて頑張ってほしいというメッセージであると受け止めております。いまだ、新型コロナウイルス感染症は世界中で猛威をふるっております。私達の研究が少しでもその問題解決の助けになるように、引き続き研究を進めていきたいと思います。
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先日、BioJapan2020でも発表したのですが、現在、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化メカニズムの解明と治療薬の創出について取り組んでいます。その取り組みについて、クラウドファンディングにて支援を求めることになりました。基礎研究ということもあり、どこまで理解を得られるのかわからないのですが、何事も挑戦ということで頑張っています。このブログの読者の皆様もよろしければ、内容をご一読いただき、ご協力をお願いできれば大変有難いです。あわせて、このクラウドファンディングの情報を拡げていただけると嬉しいです。皆様のご支援お願いいたします!!




小さい企業だからそんなのは無理よ、決してそんなことはありません。
アイデアが出せれば勝負はできます。
グライコテクニカは、順天堂大医学部、東海大医学部と連携して、この難題に取り組んでいます。
BioJapan2020でその触りをプレゼンさせて頂きました。

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この為、暫しブログサイトの更新が停滞するかも知れません、ご容赦お願い申し上げます。

旧管理人より
胃癌が腹膜播種性転移にまで進んでしまうと治療が非常に困難であります。

手術前に、腹膜播種性転移をしているかどうかのリスクをどのような指標にて評価すべきかについて、Fudan Univ.のグループは、(1)5kg以上の体重減少、(2)CA19-9および(3)CA125の発現昂進、(4)リンパ球の減少、そして(5)α2-6Sialylated bi-antennary N-glycan with bisecting GlcNAcの発現昂進、を組み合わせた指標の有効性を報告しています。

因みに、腹膜播種をCT, PET-CT, MRIと言ったイメージング技術で見つけ出すことは感度の面で問題があるとのことです。例えば、CTの感度は25.7%、PET-CTで45.5%であったとのことです。

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(本編のFig.3を引用。95%CIでのオッズ比(OR)を示しています。H5N5F1E2は、α2-6Sialylated bi-antennary N-glycan with bisecting GlcNAcのこと)

α2-6Sialylated bi-antennary N-glycan with bisecting GlcNAc以外にも4種類ほどのN-型糖鎖が腹膜播種で有意に発現上昇していますが、全てにおいて末端シアル酸修飾を受けていることが特徴になっているようです。


新型コロナウイルス(COVID-19)においては、無症状や軽症の割合が高いこと、潜伏期間が2週間と長いこと、若年層ほど軽症化率が高いこと、異常に活性化されたマクロファージが見られることなどから、自然免疫が大きな役割を果たしていると考えられています。

自然免疫においては、食細胞である好中球、単球、マクロファージが最前線におり、捕体系も重要な要素です。これらに加えて第三の自然免疫の生体防御機能として、2004年に好中球細胞外トラップ(NETsと呼ばれる)が発見されています。

好中球細胞トラップとは、好中球が、自らを犠牲にして自らのクロマチンと抗菌タンパク質(エラスターゼ、ミエロペルオキシダーゼら)を細胞外に放出し、放出されたDNA線維によりウイルスや病原体を物理的に捕獲し、抗菌性タンパク質により殺菌する機能です。しかし、放出されたクロマチンを構成するタンパク質であるヒストンは高い細胞障害性を備えており、微小血栓がNETsで形成され、血小板の凝集が進むことで、肺の微小循環での凝固が促進され組織に虚血性のダメージを与えるという副作用が存在することを忘れてはなりません。

Montpellier Univ.のグループは、このような観点から、好中球細胞外トラップの抑制をターゲットとする治療法も検証されるべきと提案しています。本論文は、実験結果を述べたものではありません。この概念を実験的なデータで裏付けるために、現在いくつかの臨床研究が進行中とのことです。
この観点に立った場合の治療法とは、DNase-1(一本鎖DNAおよび二本鎖DNAを分解し5'-P末端を含むオリゴヌクレオチドを生じる反応を触媒する酵素)の投与、C-タイプレクチン受容体 (CLEC) 阻害剤、NET-阻害剤、そして抗IL-26抗体らを用いた治療ということになります。

検証結果の論文を期待しましょう・・・・。




ヒトのHCVにはワクチンは存在しません。HCVはエンベロープを持つウイルスであり、エンベローププロテインであるE1、E2は、High mannse構造の糖鎖修飾を強く受けていることが知られています。

下記のグループは、High mannose結合特異性を有する放線菌レクチンアクチノヒビン(Avaren)とヒトのIgGのFc領域との融合タンパク質(Avaren-Fc)を用いて、HCVを中和化することで感染防止が可能であると報告しています。

実験は、in vivo、in vitroの両方で行われており、in vivoにはヒトの肝臓を持つキメラマウスを、in vitro実験にはヒトの肝臓細胞株Huh-7が使用されています。下図は、in vitro実験でのHCV感染率を示します。

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(本編のFig.1の一部を引用、VRC01はコントロールの抗体)

in vivo実験では、マウスの体重、血清アルブミン、血清ATL、肝臓の組織病理の観点からはAvaren-Fc投与の毒性は見られなかったとのことです。

この治療法は、HCV末期患者への肝臓移植におけるHCVの再感染防止やHIV/HCV共感染の予防などに有効であると結論しています。
レクチンとFc領域との融合タンパク質は、この例をはじめとして、他のウイルスへの応用を含め、いろいろな応用展開が考えられそうです。

下記論文は、前立腺腺癌細胞を用い、がん化学療法(パクリタキセルを使用)によって、抗癌剤治療に耐性を持つに至った癌細胞株について、どのような形質変化が起こっているかについて研究した結果を報告しています。

抗癌剤耐性を持つに至った細胞株においては、下記の変化が起こっています。
  • ABCトランスポーターが高発現する(ABCトランスポータとは、ATP加水分解活性を担う膜貫通型タンパク質です。ABCトランスポーターが高発現すると、体外から侵入する異物を排除する機能が高くなり、抗癌剤が効かなくなってきます)
  • アポトーシス抑制遺伝子(Bcl-xL と Bcl-2)が高発現する
  • Fibronection, IIICS(III homology connective segment), E-cadherinが高発現し、N-cadherinがむしろ減少する(これらは細胞形質が上皮細胞から、間葉系細胞様に変化していることを示唆します。このことによって癌細胞の浸潤や転移が加速されると考えられます。)

糖鎖修飾については、
  • bisecting GlcNAcの減少と多分岐N-型糖鎖の昂進
  • α2-3Sia, α2-6Siaらの昂進が見とめられます
これらは、糖転移酵素であるMGAT3の減少, MGAT5, ST6GAL1, ST3GAL2らの昂進という発現変化と対応していることも確認されました。

bisecting GlcNAcの減少と多分岐N-型糖鎖の昂進は、細胞の転移性が上がっている場合の特徴であります。
α2-3Siaの昂進は一般的に癌で見られる特徴であり、
α2-6Siaは抵抗性を示す癌では昂進する場合がしばしば見られ、α2-6Siaの高発現は間葉系幹細胞のような多能性細胞で見られる特徴のひとつです。


新型コロナウイルス(SARS-CoV-2:下記論文ではHCoV-19と記載)とヒトの感染受容体については、ACE2 (angiotensin I converting enzyme 2)のみでなく、各種のC-Type Lectin Receptor(CLR)の存在も指摘されていることは周知の通りです。

下記論文においては、HCoV-19とACE2の相互作用にフォーカスし、その糖鎖修飾の影響が議論されています。

HCoV-19には、High Mannose型を主体に非常にヘテロな糖鎖が発現しており、ACE2には主に複合型糖鎖が発現しています。
これらN-型糖鎖修飾について、PNGase Fを用いて切断した場合に、HC0V-19とACE2の相互作用にどの程度の影響が表れるかをbio-layer Interferometryで測定した結果が下記です。

HCoV-19の糖鎖を切断しても、HCoV-19とACE2の相互作用にはほとんど影響がないことが分かります。一方、ACE2の糖鎖を切断した場合には、若干ですが、HCoV-19とACE2の相互作用が強くなっているようです。

deglycosylation effects_HCov-19.png
















(本編のFig.4を引用)


ソウル大学のグループは、免疫チェックポイント阻害剤の有効性を示すバイオマーカーとして細胞融解活性スコア(CytAct)に着目し、肺癌を対象として、その診断能を、非侵襲な方法であるPET画像をINPUTとし、腫瘍の微小環境(TME)をLAVELとし、CytActをOUTPUTとしてDeep Learningで評価を行いました。

CytAct_DL1.png



















(本編のFig.1の一部を引用、Deep Learning概要)

CytActは、腫瘍の微小環境を表すスコアとして用いられており、腫瘍に対する細胞毒性を持つCD8+ T-細胞の活性と強く相関しています。このスコアは、二つの細胞融解エフェクター(granzyme A (GZMA) , perforin (PRF1),)の発現量から計算されます。免疫チェックポイント阻害剤に対してresponderであるか否かという指標でのAUCは、0.88に達しました。responderは、高いCytAct値を示し、CytActの高いグループは、治療開始後の生存確率も非常に高くなっています。免疫チェックポイント阻害剤を用いた癌の免疫治療は非常に高額であり、従って、responderであるか否かを的確に判断できることは非常に有用です。

CytAct_DL.png


















(本編のFig.5の一部を引用。PR Groupはrespondersを表し、SD/PD Groupはnonrespondersを表す。 OS および ICBは、それぞれoverall survival, immune checkpoint blockadesの略である。)


海藻から抽出した多糖類、例えば、アルギン酸塩、フコイダン、アスコフィランらが、免疫機能を増強するということは良く知られています。下記論文では、海藻のミルから抽出した多糖類が、免疫増強機能を示し、実際に腫瘍の免疫治療に効果的であることが示されています。

ミルからの多糖類の抽出法は大まかには次のようになります。
  1. 90%エタノールに一晩浸す
  2. エタノールを除去して、純水中で多糖類を抽出する(65℃、2時間)
  3. 親水性の多糖類をエタノール中で沈殿させる
  4. 再び純水に溶解させ、Savage法を用いてタンパク質を除去する
  5. イオン交換クロマトを用いて三つのフラクション(F1, F2, F3)を分取し、F2フラクションを使用する(CFPと命名)
骨髄由来樹状細胞をCFPで処理すると免疫サイトカイン(IL-6, IL-12, TNF-α)の分泌が大きく促進されます。LPS(リポ多糖)がControlとして用いられています。LPSは免疫増強作用を示しますが、全身性の炎症を引き起こし、場合によっては敗血症をも招く為、実際の免疫治療などに使用されるわけではありません。LPSに比べれば、海藻から抽出した多糖類は同じような免疫増強機能を示しながら、安全性が高いことが極めて大きな特徴です。

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(本編のFig.1の一部を引用。Controlとしてグラム陰性バクテリアのLPS(リポ多糖)を使用している)

CFPの抗がん作用を検証するため、黒色腫の免疫治療にCFPを使用した場合を示します。黒色腫に特異的に現れるtyrosinase-related protein 2 (TRP-2)を抗原として、CFPで処理することで免疫機能が増強され、腫瘍が縮小することが示されています。
CFP-2.png













(本編のFig.5の一部を引用)

更に、CFPを免疫チェックポイント分子PD-L1のアジュバントとして用いた場合ですが、免疫治療の効果が大きく増強されることが示されています。

CFP-3.png













(本編のFig.6を引用)


腫瘍細胞膜上に発現している免疫チェックポイント分子PD-L1とT-細胞上のPD-1が結合することで、腫瘍はT-細胞の攻撃を逃れることができるようになります。従って、PD-L1/PD-1の相互作用を阻害することで、癌の免疫治療が活性化することになります。

東北大医学部のグループは、免疫チェックポイント分子PD-L1に対する予て開発した抗体L1Mab-13に対して、そのアイソタイプをType1からType2に変更し、更にフコース転移酵素(FUT8)欠損のCHO細胞で発現させた脱フコシル化抗PD-L1抗体(13-mG2a-f)を開発し、その口腔癌に対する免疫治療効果を検証しました。

L1Mab-13は、そのままではADCC及びCDC活性が弱く、Type2に変換することでADCCおよびCDC活性を付与しました。その上で、脱フコシル化を行うことで、下図に示すようにIgGのエフェクター効果が増強されました。

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(本編のFig.4を引用。SAS, HSC-2 は、口腔がん細胞の名称。)

口腔癌細胞SASとHSC-2をマウスに異種移植し、マウスのIgGをコントロールとして、13-mG2a-fを投与したときの抗がん作用をin vivoで評価したものが下図です。有意に癌組織が縮小していることが分かります。


anti-PD-L1 mAb_HSC-2 xenografts.png










(本編のFig.6の一部を引用。13-mG2a-f投与で有意に腫瘍サイズが減少。)

今後の展望として、癌特異的な抗PD-L1抗体の開発を進めるとのことです。


Northwest University, Xi'anらのグループは、乳癌における糖鎖修飾構造の変化について、レクチンマイクロアレイ、レクチン染色、LC-MS/MSを駆使した研究結果を報告しています。

糖鎖修飾構造の変化については、大局的に見ますと、High Mannose 構造が全体の80%以上と大幅に増加し、それに伴って複合型N-型糖鎖が減少していることが大きな特徴です。その複合型N-型糖鎖における特徴的な糖鎖修飾構造の変化は、レクチンマイクロアレイによる比較糖鎖プロファイリング解析とレクチン組織染色から次のように要約されます。
  • bisecting GlcNAcの減少(PHA-E レクチン)
  • α2-6Siaの増加(SNA レクチン)
PHA-Eは、bisecting GlcNAcのみに結合する訳ではなく、Gal修飾を受けた二分岐N-型糖鎖にアフィニティーを持ち、bisecting GlcNAcが存在すると、結合が強くなるという性質を持ちます。bisecting GlcNAcの存在量の変化については、LC-MS/MSでも検証されています。
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(本編のFig.3の一部を引用。MCF10Aは正常細胞、MCF7, MDA-MB-231, SK-BR-3は、乳癌細胞。乳癌細胞では、PHA-E染色が弱くなり、逆にSNA染色は強くなっている。)



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(本編のFig.4の一部を引用。PHA-Eでグライコキャッチされた糖タンパク質をLC-MS/MSで同定した結果から、HSPA8, EGFR, LAMP1, CD63, LAMP2を主要なハブとするネットワーク表示を示す。青色は乳癌で減少、赤色は乳癌で上昇していることを表す。)

bisecting GlcNAc修飾を受けているEGFR(Epidamal growth factor receptor: 上皮成長因子受容体)の減少は乳癌では著しく、EGFRのbisecting GlcNAc修飾の昂進は、細胞の転移性、増殖性らを抑制することが知られています。 従って、bisecting GlcNAcの減少は、逆に、これらを増強しているということができるのではないでしょうか?

Leiden Universityのグループは、膵管腺癌に対する血清中の糖鎖マーカーをMALDI-FTICR-MSを用いて探索した結果を報告しています。血清中の糖タンパク質のN-型糖鎖をPNGase Fで切断し、それを液クロで精製して質量分析に掛けています。

結果として、膵管腺癌においては、4分岐N型糖鎖、末端フコース修飾が有意に増加していることが分かりました。更に、シアル酸については、α2-3Siaが減少し、α2-6Siaが増加していることも分かりました。
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(本編のFig.2の一部を引用)

これらの結果から、4分岐N型糖鎖+α2-6Sia修飾+末端フコース修飾の3因子を用いて、膵管腺癌の診断性能を評価したところ、AUC=0.807(感度=75%, 特異度=72%)が得られました。

実際の診断系に落とし込むためには、これら3因子に対する感度・特異度の高いプローブ分子(抗糖鎖抗体あるいはレクチン)を用意する必要があるでしょう。今後の研究発展を期待しましょう。


潰瘍性大腸炎(UC)やクローン病(CD)を発症した場合に、血清中のIgGの糖鎖がアガラクトに変化するということは既に知られていますし、診断マーカーとしての研究が進んでいます。

Emory Univ.らのグループは、血清中のIgG自体の糖鎖ではなく、IgGの糖鎖結合性が潰瘍性大腸炎やクローン病の発症で変化しており、その変化が腸内細菌の糖鎖修飾と相関していることを示しています。

血清中のIgGの糖鎖結合性は、糖鎖アレイを用いて評価されています。
IgG_UC_CD.png


















(本編のFig.2から一部を引用、フコースとシアル酸にアフィニティーを持つIgGが増加する。フコースとシアル酸、どちらがメインに効いているかを糖鎖アレイのサブグループで検討すると、フコースがより強く潰瘍性大腸炎やクローン病で関係していることが分かります。F1はmono-fucosylatedの略、S1はmono-sialylated の略。)


Intestinal bacteria_UC_CD_FACS.png











(本編のFig.5から一部を引用、FACS解析により、潰瘍性大腸炎やクローン病で、腸内細菌のフコース修飾が増加していることが分かります。なお、AALはコース認識レクチンです。)

腸内細菌の糖鎖修飾の変化(フコシル化)と炎症性腸疾患の関係性について、より突っ込んだ研究を期待しましょう。

バイオマーカー探査における基本的なワークフローは、
  • レクチンマイクロアレイを用いて正常部位と疾患部位の比較糖鎖プロファイリング解析を行う
  • 発現している糖鎖構造の推定や変化を確認するために糖転移酵素遺伝子のqPCRを行ない、その確証を得る
  • MS解析によって糖鎖構造を確定し、プロテオームの既知データベースも参照しながらターゲットとなる糖ペプチドの同定を行う
最近の産総研の研究から、しかしながら、mRNAのトランスクリプトーム解析を行うことで(RNA-sequencing)、糖転移酵素の発現状態はもちろんのこと、新規の転写物も含め糖タンパク質の発現を網羅的に解析することができ、バイオマーカーの探索フェーズではNGS(next-generation sequencing)を使う方がqPCRよりもメリットが引き出せそう、という旨の論文が出ています。なお、本実験では、RNA-SeqのNGSとしてIon PGM(ThermoFisher)が使われています。

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(本編のFig.3の一部を引用、PHH(normal liver cell)とHuH7(hepatocarcinoma cell)のRNA-Seqを用いたVolcano plot analysisの結果、AFP, MASP1, ICAM2らの糖タンパク質がHuH7で高発現していることが分かります、緑色が糖転移酵素です)


バイオセンサーと言えば、ほとんどが光学的な検出法に基づいています。

典型的な例は、
  • Chemical Luminescence (ケミルミ)
  • Surface Plasmon Resonance(SPR)
  • Evanescent wave Fluorescence (エバネッセント波蛍光励起)
  • Reflectometric Interference (反射型干渉分光)
  • Bioluminescence (生物発光)
  • Elipsometry (エリプソ)
  • Surface enhanced Raman Scattering (表面増強ラマン散乱)
などであります。

検出限界感度(LOD)は、もちろん手法や装置毎に違うのですが、GlycoTechnicaのGlycoStation Reader では、エバネッセント波蛍光励起法を使用しており、そのLODは、1fM領域に達しています

電気的なセンサーで中々ここまでの感度を出している検出系は存在しないのですが、NIAB, HyderabadらのグループはGraphenを用いたFET型のデバイスで、LOD=1fMを実現したようです。

デバイスの構造は下記のようになっており、Graphenに EDC-NHSを用いて抗体を固定化し、BSAでブロッキングした後、アナライトをアプライし、抵抗の変化をLock-inアンプで検出します。

GraFET.png


















(本編のFig.1を引用)


しかし、下図のように、アナライトの濃度を変えた時の抵抗の変化がシグモイド的ではなく、ノイズ的でもあり、本当に1fMの感度が出ていると言えるのかどうか?疑問点があります。

GraphenFET_Resistance.png

























(本編のFig.5を引用、Agはアナライトのことです)

ともあれ、電気的な方法は、デバイスを小型化できるので、Point of Careに向いています。


風邪の原因ウイルスであるHCoV-OC43やHCoV-HKU1は、シアル酸を感染受容体として使用しており、MERS-CoVは、DPP-4(dipeptidyl peptidase-4)とシアル酸という2種の細胞膜上の分子を感染受容体として使用していることが分かっています。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が重症化や多臓器不全を招いたりする原因として、ウイルスが多種類の感染受容体や共受容体を用いているからではないか?という議論があります。SARS-CoV-2の感染受容体としては、第一にACE2(angiotensin-converting enzyme-2)が知られていますが、先頃、C-タイプレクチン(DC-SIGN, L-SIGN, MR, MGLら)も感染受容体であることが実証されています。

University of Marylandらのグループは、SARS-CoV-2においては、ACE2らに加えて、シアル酸関連分子も感染受容体として機能しているのではないか?ということを指摘しています。

分子動力学的なシュミレーションによって、SARS-CoV-2のSタンパク質のNTD(N-terminal domain)に、 (a) 5-N-acetyl neuramic acid  (Neu5Ac), (b) α2,3-sialyl-N-acetyl-lactosamine (2,3-SLN), (c) α2,6-sialyl-N-acetyl-lactosamine (2,6-SLN), (d) 5-N-glycolyl neuraminic acid (Neu5Gc), (e) sialyl LewisX (sLeX) らのシアル酸関連分子がはまり込む様子を示しています。


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(本編のFig.2を引用)



5か国から合計10,482人のIgGサンプルを用いて、そのN-型糖鎖修飾が老化及び性別でどのように変化するか?の研究結果が報告されています。

老化によるIgGのN-型糖鎖修飾の変化の特徴
  • アガラクト構造が増加する。
  • ガラクトシル構造においては、G1は中国以外で緩やかな減少傾向にあり、G2はすべての国で大きな減少傾向を示す。
  • シアロ構造が減少する。
  • Bisecting GlcNAcが増加する。
  • コアフコースはそれほど変化しない。

性別によるIgGのN-型糖鎖修飾の変化の特徴
  • 女性の方がG2構造の減少が少なく、従ってアガラクト構造の増加も低い、と言ってもその差異は50歳くらいまでであり、それ以降は性別間の差異が少なくなる。
  • シアロ構造の減少も、女性の方が50歳くらいまでは緩やかである。
一般的な傾向として、アガラクト構造の増加やbisecting GlcNAcの増加は、炎症が増加していることを示唆し、老化とともに全身の炎症が昂進していることが分かります。
女性の方が男性よりも健康であるという傾向も、糖鎖に如実に現れているようです。
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(本編のFig.1Aを引用)



C-タイプレクチンと単糖のアフィニティーは非常に低く、Kdはmillimolarレンジとなります。レクチンのアフィニティーを改善するには、MultivalencyやClustering効果を使うことが有効です。Multivalencyの効果を持たせるためには多量体化させることが有効ですし、それを更に空間的にクラスタリングさせることでアフィニティーを増強することもできます。

University of Grenoble Alpesらのグループは、TETRALECと名付けられた汎用的なレクチンのCRD(糖鎖認識ドメイン)の4量体化の方法を提案し、DC-SIGNのCRDを使って、その効果を検証しています。

レクチンのCRDを4量体化するために、N-末端ビオチン化学標識付けを行っています。

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(本編のFig.1の一部を編集引用)


DC-SIGNのCRD単量体とそのTETRALECの糖鎖結合特異性の違いを糖鎖アレイを用いて比較したものが下図です。

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(本編のFig.5の一部を引用、Cy3標識効率の違いを補正するために、Average規格化法が使用されている)

TETRALECを用いることで、蛍光強度は2から3倍増加したとのことです。全体的な糖鎖結合プロファイルは似ていますが、異なっているところも散見されます。恐らく、
糖鎖とCRDの間の位置的な関係の制約を受けていることの結果と考えられます。

しかし、そもそも論ですが、糖鎖とレクチンの間の低いアフィニティーの影響を受けない糖鎖プロファイリングの手法がエバネッセント波蛍光励起です。
アプリケーションによって、使い分けることが有効かも知れません。例えば、ノンスぺが多い臨床検査のアッセイでは、洗浄がどうしても必要となりますので、こういった多量体化の手法を使って結合力を上げるという手法は有効でしょう。


Univ. of Oxfordらのグループは、5名のドナーを使って、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のSタンパク質のどの部分のアミノ酸配列が、樹状細胞において実際にHLA-DRとして抗原提示されているのか?について報告しています。この情報は、ワクチンや治療用抗体の開発に大いに役立つものと思われます。

HLA-DRはMHCクラスII抗原で、抗原提示細胞であるB細胞、単球、マクロファージ、樹状細胞などに存在します。提示される抗原の平均アミノ酸配列は15-merです。

HLA-DR_S-protein.png


















(本編のFig.3を引用、C2, C459. C460, C491, C493は、ドナーのID)

Sタンパク質のアミノ酸配列(24 - 49)、同(457 - 485)の領域が高い頻度でHLA-DRに提示されていることがわかります。



エクソソーム(Exosome)をバイオマーカーに使おうという試みが増えています。慶応大学医学部らのグループは、膵臓癌から放出されるエクソソームの糖鎖に着目し、新たな糖鎖マーカーを報告しています。

エクソソームは、血清からMagcapture Exosome Isolation Kit (富士フィルム)を用いて抽出されており、その比較糖鎖プロファイリングにレクチンマイクロアレイ(GPバイオサイエンス)が使用されています。また、エクソソームのカウントには、ExoCounter(JBC)を用いています。それぞれのプロトコルは説明書を参考して頂くとし、結果として、下記が得られています。

ABA-positive, ACA-positiveなエクソソームが膵臓癌患者を健常者から区別する為の有意なマーカーになり得るとしています。ABAとACAというレクチンに共通する糖鎖結合特異性は、Galβ1-3GalNAc、即ちO-型糖鎖のT-抗原であります。ABAとACAの診断薬としてのAUCは、それぞれ0.838、0.810という値が得られており、ほぼ同等な性能を示しています。


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(本編のFig.6の一部を引用、ABAとACAは膵臓癌検査という意味でほぼ同等な性能を示す。これらレクチンはエクソソーム上のGalβ1-3GalNAc(T-抗原:O-型糖鎖)を認識していると考えられる)

本研究は、二つのコホートの血清サンプルを使用しており、後ろ向き試験の結果であります。本ブログ記事の筆者にとって若干懐疑的な点は、T-抗原は一般的なO-型糖鎖の構造であり、膵臓から分泌されたエクソソームを選択的に抽出しない限り、実際の診断系では、性能が得られない可能性があるのではないか?と思われる点です。


末期腎疾患患者の透析治療のひとつとして、腹膜透析があります。この場合に、全身的な炎症や内皮機能障害が発生し、心血管合併症に至る場合もあります。

University of Belgradeらのグループは、この腹膜透析患者の予後マーカーの探索に際し、糖鎖マーカーに着目した研究を行っています。糖鎖修飾構造の変化については、例えば、腹膜透析液中のIgGの糖鎖がアガラクト型に変化するという事が既に知られています。血栓の発生らを伴う心血管合併症については、フィブリノーゲンがある程度関与しているに違いないという洞察の元、フィブリノーゲンの糖鎖修飾構造にどのような変化が生じているのかについて、レクチンマイクロアレイとレクチンブロットを用いて研究を行いました。フィブリノーゲンには、Aα、Bβ、γという三つのポリペプチド・チェーンが存在し、それがダイマー構造を作り、N-型糖鎖、O-型糖鎖両方の修飾を受けていることが分かっています。

結果として、腹膜透析を受けている患者では、フィブリノーゲンの末端フコース修飾が有意に減少していることが分かりました。また、この変化は、腹膜の限外ろ過率と相関しており、ROC解析においてAUC=72.4%となりました。
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(本編のFig.1Aを引用、PDは腹膜透析を受けている腎疾患患者、HCは健常者)

なお、フィブリノーゲンの糖鎖に関しては本報告が初めと思われますが、従来の知見として、糖尿病性腎症では、α2-6Sia修飾の増加、およびT-抗原の増加が特徴的であることが知られています。



糖化とは、タンパク質のアミノ酸とグルコースが縮合反応をすることを指し、メイラード反応を呼ばれます。

この糖化によってできる産物をAGE(Advanced Glycation End Products)と呼びます。糖化は、老化や炎症に関係していて、例えば、皮膚の艶や弾力がなくなり色がくすんでしまうのもその一例、髪のタンパク質のハリや艶が無くなるのもその一例、糖化が血管内皮で進むと動脈硬化を招き、心筋梗塞や脳梗塞にもつながるのもその一例、腎臓では糸球体が糖化されてフィルターの働きが弱くなると腎機能が低下し、骨では粗鬆症が進み、白内障も糖化が引き起こしていると言われています。更には、アルツハイマー型認知症、非アルコール性脂肪肝、サルコペニア、歯周病らにも糖化が関わっていると指摘されています。つまり、老化を防ぎ、健康を保つためには、糖化を出来るだけ抑制することが非常に大事なのです。

なお、糖化と糖鎖修飾とは違いますので、くれぐれもお間違えの無いようにお願い致します。

University of Turinらのグループが、この糖化産物が及ぼす影響について、面白い研究を報告していますので、その概要をレビューしてみたいと思います。


1. インクレチン
インクレチンとは、栄養素の摂取により消化管から分泌されインスリン分泌を促進する消化管ホルモンの総称です。主なインクレチンとしては、GIP(gastric inhibitory polypeptide) とGLP-1(glucagon-like peptide-1)が存在し、前者は上部小腸を中心に存在する K 細胞から分泌され、後者は下部小腸および大腸を中心に存在する L 細胞から分泌されます。糖化産物を過剰に与えた個体(マウス)では、下記の現象が起こっていました。
  • GIP, GLP-1の分泌が減少
  • インスリンの分泌が昂進
若干矛盾するような動きですが、理由については不明です。しかし、糖化産物の増加がインスリン産生に負荷を掛けているイメージが浮かびます。

2.サイトカイン(炎症性・抗炎症性サイトカイン)
  • 炎症性サイトカイン(IL-1β、IL-17, TNF-α)分泌が昂進
  • 抗炎症性サイトカイン(IL-6, IL-10)の分泌が減少(IL-6は炎症性サイトカインでもあります)
  • IFN-γにはほとんど影響なし
  • PAI-1(plasminogen activator inhibitor-1)が増加(因みに、PAI-1は、糖尿病血管合併症や血栓症のマーカー)
3.血中IgGの糖鎖修飾 (レクチンマイクロアレイを用いて計測)
  • Gal, Sia修飾の昂進
  • その他の変化は少ない
IgGの糖鎖修飾の変化については、一般的な傾向として、アガラクトの方向に動くと免疫活性が高くなっていると状態と理解されています。

4.腸内細菌叢
  • Lactobacillus, Prevotella, Anaerostipes, Candidatus Arthromitus が減少
  • Parabacteroides, Ruminococcus (Lachnospiraceae family), Lawsoniaが増加

糖化産物が増加するとこのように腸内細菌叢も大きく変化するのですが、各種腸内細菌とglucose, insulin, PAI-1, IL-1β, creatinine, GIP, GLP-1との相関関係が下記に示されています。赤が正の相関、青が負の相関であることを示します。

glycation.png












































(本編のFig.7を引用)

糖化産物がもたらす影響について、その発生メカニズムを理解していく上において貴重な知見となっていると思われます。

血液バンクにおける血清学的な血液の分類は、A,B,O,そしてAB型であります。通常の血液型検査試薬は、ABOの基本抗原に加えて、多少とも他の抗原が発現していても、ABO型に特異的に強い凝集反応を起こすように設計されているので、ABO血液型のサブグループの存在に気付くことはありません。

Wisconsin Blood Centerのグループは、レクチンマイクロアレイを使用することで、ABO血液型のサブグループを判別することができ、輸血や移植に伴う免疫寛容を最大化することができるとしてその有用性を説いています。

血液型の基本は、H-抗原(O型,Fucα1-2Galβ1-4GlcNAc)ですが、例えば、
  • GalactoseやGalNAcを修飾する糖転移酵素の活性に依存して、H-抗原の量は変化することはあれ、必ずどの血液型にも存在します。一般的な傾向としては、残存するH-抗原の減少は、AB>A>Bの順になります。
  • また、ABO血液型の基本抗原以外に、Mannoseやpoly-LacNac構造らも存在し、その存在比率も変化します。
  • 更には、血液悪性腫瘍では、ABO血液型判定試薬では、凝集反応が弱くなりますが、そのメカニズムやその結果どのような免疫異常が起こるのかについてはまだ知られていません。

abo-wbc.png


































(本編のFig.4の一部を引用)

つまり、レクチンマイクロアレイを用いることで、より正確なABO血液型の表現型を予測することができることが示されているのです。


HIVの治療に抗HIV薬の投与に加えて、抗ウイルス活性を持つIFNα(Peg-IFNα2a)を治療薬として併用することが多い。何故ならば、IFNαの投与で、HIVの潜伏感染細胞を減らし、HIV治療の有効性を上げることができるからです。しかしながら、慢性的なウイルス感染下でのIFNαの投与は、免疫に副作用ももたらすことから、どのような変化が免疫系に起こっているかを明らかにし、治療と副作用のバランスを取る必要があります。
Wistar Instituteのグループは、この観点から、IgGや免疫細胞表面の糖鎖にどのような変化が起こっているかについて、レクチンマイクロアレイなどの糖鎖プロファイリング手法を使って検討を加えました。

IgGに見られる糖鎖修飾構造の主な変化
  • Bisecting GlcNAcの増加
  • アガラクト構造の増加
CD8+T-細胞, NK細胞表面に見られる糖鎖修飾構造の主な変化
  • シアル酸修飾の減少
  • T/Tn抗原の増加
これらの糖鎖修飾構造の変化については、以下のような免疫調整機能と関係することが知られています。
  • Bisecting GlcNAcは、T-細胞以外の免疫細胞表面に広く存在するFcγRとIgG Fc部との結合を増強し、IgGのエフェクター機能を強化することが知られている
  • IgGに見られるアガラクト構造は、自己免疫疾患の誘発など、免疫系の活性が強まっている場合に見られる構造であることが知られている
  • マクロファージら免疫細胞表面に存在するSiglecは、免疫抑制的に働くことが知られており、シアル酸修飾の減少は、免疫抑制にブレーキがかかる方向であることを示唆する
  • Tn抗原の増加は、マクロファージ上のMGLと結合し、抗炎症性サイトカインの分泌を促進したり、T-細胞のアポトーシスを誘起することが知られている
HIV治療に向けて、これらの糖鎖に着目した研究が役立つことを深く祈ります。


脳腫瘍には有効な免疫治療はなく、手術や放射線治療及び化学療法が主体になります。脳腫瘍の周りには、癌組織に浸潤したマクロファージやミクログリアが存在し(TAM: Tumor-associated Macropharges and microglia)、これらTAMは、脳腫瘍周辺組織の1/3を占め、癌細胞の増殖や転移に関わっています。問題なのは、本来癌細胞を攻撃すべきマクロファージやミクログリアが、癌の増殖や転移を促進する足場になってしまっているということです。

脳腫瘍とTAMの関係性について、次のようなことが分かって来ています。
  • 脳腫瘍組織にTn抗原(α-GalNAc)が高発現している(健常人には、Tn抗原はほとんど発現していない、Tn抗原の発現はα-GalNAc特異的なHPAレクチンで確認している)
  • TAM表面には、C-タイプレクチンであるMGL(Macropharge Galactose Lectin)が高発現している
  • マクロファージは、CD163+発現と相関している

Glioblastoma.png



















(本編のFig.1、Fig.2の一部を編集引用)

即ち、脳腫瘍においては、CD163+マクロファージに発現しているMGLと脳腫瘍に発現しているTn抗原が結合することで、IL-10の分泌増加、T-細胞のアポトーシス誘導など免疫抑制的な刺激が入り、脳腫瘍が免疫攻撃を回避しているということが分かります。



FOXP3(forkhead-box-P3)は、制御性T-細胞のマスター転写因子です。制御性T-細胞は、CD4+ T-細胞の一種であり、過剰な免疫応答を抑制する役割を持っています。Hannover Medical Schoolのグループは、このFOXP3が欠如したScurfyマウス(Sf mice)を用い、CD4+T-細胞、樹状細胞、肺胞マクロファージらの細胞表面糖鎖(特に糖脂質)とC-タイプレクチンの発現に、Wildタイプと比較してどのような差異があるかについて研究しています。

糖脂質の発現変化
CD4+ T-細胞: Sf miceにおいて、GM1b、Gn4が昂進
樹状細胞: Sf miceにおいて、GT2、Lac-Cer、Sialyl nLc4-Cerが減少


C-タイプレクチンの発現変化
肺胞マクロファージ: Sf miceにおいて、CLEC7A(Dectin-1)が昂進
樹状細胞: Sf miceにおいて、Dectin-1が昂進、CLEC12A(MICL)が減少

このような変化が発生するメカニズムについては、まだ不明であり、この変化がもたらす機能詳細についても今後の研究を待たねばなりません。
ともあれ、免疫恒常性が崩れた場合のバイオマーカーにはなり得ると結論しています。



前立腺がんのマーカーと言えば、PSA。このPSAの値が4ng/mLから10ng/mLの数値を示すと、25%の確率で前立腺がんの危険性があるとされる。この領域のPSA値はグレーゾーンであり、前立腺肥大との区別を含め、詳細な二次検診が必要とされます。

野口研究所、京大医学部、大阪国際がんセンターらのグループは、
ConAというレクチンに結合しない分画で、
(1)3分岐のN-型糖鎖を持つPSA、
(2)糖鎖を一切持たないPSA、
が前立腺がんのマーカーになりうるという見解を示しました。
なお、詳細な臨床研究は今後ということです。
この新しいPSA糖鎖マーカーを臨床検査的に使用する場合には、どのようにアッセイを設計するか?が大きな課題のように思えます。

因みに、既知の前立腺がんに対するPSA糖鎖マーカーは、その糖鎖修飾構造の変化として、α2-3Sia修飾の増加、そしてまたLacdiNAc構造の増加がターゲットになっていました。

MD Andersonらのグループは、免疫チェックポイント分子PD-1のリガンドであるPD-L1について、治療および診断という二つの側面からPD-L1の糖鎖修飾の影響についてレビューしています。PD-1は、ご存知のように活性化T細胞に発現する免疫チェックポイント分子です。PD-1が癌細胞表面に発現したそのリガンド分子であるPD-L1と結合することでT細胞は活性化が抑制され、癌細胞はT細胞の攻撃から逃れていきます。

PD-L1にも例外なく糖鎖修飾が行われています。PD-L1自体は33kDaの分子量ですが、通常50kDa程度の分子量を持っており、N-型糖鎖が、N35, N192, N200, N219に付加されています
PD-L1の糖鎖については、まず基本的に、26Sプロテアソームからの分解を阻害して、PD-L1を安定に保つという作用があります。糖鎖は、安定化だけでなく、機能発現にも関わっており、例えば、EGF(Epidermal Growth Factor)/EGFR信号が入ると、糖転移酵素B3GNT3が活性化され、poly-LacNAc構造がPD-L1に付加されることで、PD-1/PD-L1相互作用が強くなるということも報告されています、つまり癌細胞の免疫回避が強くなるということです。

PD-1/PD-L1の相互作用を阻害する抗体医薬としては、nivolumab, pembrolizumab, atezolizumab,らが知られていますが、非レスポンダーと部分的なレスポンダーを合わせると60%にも達するということで、治療費が高額であることもあり、治療効果を予測できるようなマーカーが切望されています。その一環として実施されているパラフィン固定組織サンプルを用いたPD-L1の免疫組織染色検査ですが、実際にはPD-1/PD-L1治療の効果とはあまり相関が取れていません。PD-L1のアッセイとしてFDAから承認されているそれを用い、PNGase (Peptide N-Glycosidase:N-型糖鎖切断酵素)で糖鎖を除去した場合と除去していない場合を比較すると、糖鎖の除去でPD-L1の検出が2倍も増加し、肺がん患者で、従来法の免疫組織染色でPD-L1の発現が1%以下とされた割合が16.4%だったものが、糖鎖の除去によって49%以上に増加したとの報告もあります。

つまり、PD-1/PD-L1の相互作用自体がpoly-LacNAc構造で増強されるということを考えても、治療薬である抗体医薬はもちろんのこと、治療効果を予測するためのPD-L1抗体にしても、糖鎖の存在をもっと重要視して設計されなければならないということを意味しているように思えます。糖鎖構造には個人差や組織間差もあることから、治療自体が高額なこともあり、更には、よりテーラーメイドな治療が必要なのではないでしょうか?


University of Modena and Reggio Emiliaらのグループは、新型コロナウイルスの患者と健常人の間で、CD4+ T細胞、CD8+ T細胞、および血漿中(肺組織及び末梢血)のサイトカインに如何なる違いがあるのかを検証しています。

T細胞については、フローサイトメーターを使用し、CD4+ T細胞, CD8+ T細胞それぞれのサブセットについて検証しています。

サイトカインについては、以下を網羅しています。
( IL-1α, IL-1β, IL-2, IL-3, IL-4, IL-5, IL-6, IL-7, IL-8, IL-10, IL-12p70, IL-13, IL-15, IL-17, galectin-1, galectin-3, galectin-9, IFN-γ, TNF, GITR, PD-L1, MICA, CCL-2, CCL-3, CCL-4, CCL-7, CXCL6, MIP-2, sCD27, sCD40, sCD40L)

  • 肺組織に存在するCD4+ T細胞、CD8+ T細胞の方が、末梢血中のそれらよりもIL-17を産生する能力が高い
  • CD8+CD161+ T細胞は、肺組織においては末梢血よりも4倍も多い
これらの結果から、IL-6アンプの阻害に加えて、IL-17の阻害がCOVID-19の治療に有効であるかも知れないと結論しています。

また、COVID-19の患者血漿中に、Galectin-1, -3, -9が有意に上昇していることを示している論文は、おそらくこれが初めてであり、COVID-19の治療における、治療ターゲットとしてGalectinの可能性にも言及しています。

galectin_COVID-19.png









(本編のFig.7の一部を引用)


自然免疫が、新型コロナウイルスがもたらすCOVID-19の病態に大きく関係しているのではないか?という論調は、日に日に大きくなっています。若年層や、感染しても殆ど無症状の人では、ほとんどが自然免疫でウイルスを排除できてしまっており、重症化する原因については、サイトカインストームということが定説になりつつあります。しかし、サイトカインストームに至る原因については、特定のシグナルパスがあるというよりも、ウイルス量も絡んで複合的なシグナルパスの結果と考えるのが自然です。その中のひとつに、先のブログ記事で紹介した補体レクチン経路における補体因子C5aが絡んだストーリーがあります。即ち、C5aが過剰にマクロファージを刺激したり、コレクチンMAPS複合体がFibrinogenのFibrinへの分解を促進することで血栓が過剰に作られる、ということがCOVID-19の重症化の引き金を引くという考え方です。

この補体レクチン経路の中心にいるのがMBL(マンノース結合レクチン)です。MBLのタンパク質をコーディングしている遺伝子(MBL2)には、4個のexonが存在します。具体的には、exon1は、N-末端のシグナルペプチドとコラーゲン構造をコーディング、exon2は、それに引き続くコラーゲン構造をコーディング、exon3は、そのコラーゲン構造とCRD(糖鎖認識ドメイン)の間のneck領域をコーディング、exon4がCRDをコーディングしています。

そして、このMBL2の遺伝子多型については、以下のことが知られています。
codon 52(D):アルギニン=>システインへ変化
codon 54(B):グリシン=>アスパラギン酸へ変化
codon 57(C):グリシン=>グルタミン酸へ変化
をそれぞれアリル(D)、アリル(B)、アリル (C)と呼び、正常なアリルを(A)と呼びます。

Univ. of Cincinnati College Medicineらのグループは、COVID-19において、特にAfrican Americansの致死率が高いことについて、補体レクチン経路の補体因子C3a, C5aがCOVID-19の重症化に関係しているとする議論の中で、MBL2の遺伝子多型が及ぼす可能性に言及しています。

例えば、上記したアリルの変化については、下記が知られています。
(B)は、西アフリカでは稀、コーカサス、アジア、南アメリカでは高い、
(C)は、サハラ砂漠南部で高く、コーカサスでは稀、
(D)は、北アフリカとコーカサスに局在、
といった事象です。
これらがAfrican Americansの致死率が高いことと関係しているのではないか?と推察しています。

まだ、決定的なエビデンスが示されているという印象は受けませんが、非常に面白いアプローチですし、今後の研究進展が期待されます。



皮膚は、外側から表皮・真皮・皮下組織の3層で構成されています。表皮の細胞は、その基底層に存在する表皮幹細胞から分化して生まれ、形を変えながら表面に押し上げられ、最後は老化してアカとなって剥がれ落ちる一生を送ります。この皮膚のサイクルをターンオーバーと読んでいます。また、表皮の下にある真皮には、同じように幹細胞が存在し(真皮幹細胞と呼ぶ)、肌のハリや潤いを支えるコラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸の素となる線維芽細胞を作っています。皮膚の老化は、これら幹細胞の再生能力が衰え、ターンオーバーが長くなっていくことで起こります。

筑波大学と産総研らのグループは、皮膚の表皮幹細胞の老化における糖鎖修飾の変化をレクチンマイクロアレイと糖転移酵素の発現解析を用いて解析し、老化に伴って幹細胞の糖鎖修飾が特徴的に変化することを発見しました。

若い表皮幹細胞は、High Mannose型のN-型糖鎖構造を持ち、老化が進むと、シアル酸修飾を受けた複合型のN-型糖鎖に変化していきます。
老化した幹細胞では、シアル酸修飾に関わる糖転移酵素(St3gal2, St6gal1)の発現およびMannose構造を除去する糖転移酵素(Man1a)の発現が増加しており、レクチンマイクロアレイの糖鎖プロファイリングから得られた結果と整合しています。

一方で、東京都健康長寿医療研究センターの研究では、細胞の老化のサインはシアル酸修飾の減少であるという報告があります。
この研究は従って逆の結果を与えていることになります。東京都健康長寿医療研究センターのそれは、幹細胞に特化したものではなく、体細胞全般に関する評価ですので、上記した糖鎖構造の変化は、表皮幹細胞に特有な現象なのかも知れません。


新型コロナウイルスによるCOVID-19の治療法については、まだまだ決定的なものがないのが現状です。その一つの潜在的な治療法として、間葉系幹細胞(MSC)を用いる治療法があります。

MSCによる治療効果とは、MSCがさまざまな傍分泌(パラクリン)因子とエクソソームを放出することにより、抗炎症作用、抗アポトーシス作用、抗菌作用、および血管新生促進作用を発揮し、ウイルスの排除および肺胞液のクリアランスを促進し、損傷した肺内皮細胞および上皮細胞の損傷を最終的に修復するものとして捉えられています。しかし、これは期待される効果を述べたものであって、現段階ですべてが臨床的に検証され、治療法として確立している訳ではありません。

MSCを用いたこのような基本的な治療効果に対して、ACE2(angiotensin-converting enzyme 2)を過剰発現するように改変されたMSCを用いることで、ACE2を膜表面に持つエクソソームを放出させ、それによって、SARS-CoV-2の感染を阻害するという機能が付け加えられえるのではないか?という提案が London Metropolitan Univ.よりあります。・・・・・・・・なるほど・・・・・・・・、検証結果が待たれます。

ACE2+_MSC-Exosome.png




















NIHのグループは、SpyTag/SpyCatcherシステムを用いた新型コロナウイルスSARS-CoV-2に対するワクチン開発の基盤技術を報告しています。

SpyTag/SpyCatcherシステムは、筆者の記憶が正しければ、Oxford Univ.で開発されたシステムであります。

ワクチンを開発する場合に、まず大切なことは(1)量産が効くということ、(2)抗原となるタンパク質に正しく糖鎖修飾が行われていること、であります。糖鎖修飾は、RBD(受容体結合ドメイン)にも大きく影響しますし、タンパク質の構造安定化には欠かせない構造だからです。

NIHのグループは、SpyTagとして、Aquitix aerolicus Lumagine synthase (超好熱性真正細菌ルマジン酵素)のN71に糖鎖を修飾した60-merのナノ粒子を使用し(Lus-N71-SpyTagと命名)、SpyCatcherとしてSARS-CoV-2 Sタンパク質を使用し、それらをイソペプチド結合(アミド結合)にて接合したウイルス抗原を試作することでワクチン開発の基盤技術としての評価を行いました。試作した分子模式図とNSEM像が下記です。

LuS-N71-SpyTag_SARS-CoV-2 S-SpyCatcher.png























(本編のFig.5から一部を引用)

ワクチンとしての評価は今後のお話です。

King's College Londonらのグループの新型コロナウイルスがもたらすCOVID-19のARDS発症に関するレビューは、目からウロコの内容です。

補体レクチン経路は、自然免疫における大きな柱の一つです。コレクチン 「MBL(マンノース結合レクチン), Collectin-10, Collectin-11など,Collagen-を含む Cタイプレクチン」がウイルスや病原体の特異な糖鎖構造(GlcNAc, Mannose, Fucoseなど)を認識し、MASP(MBL結合セリンプロテアーゼ)と複合体を作ることで酵素が活性化されます。この活性化したコレクチンMASP複合体が、補体第4因子(C4)を活性化し、順次補体を活性化して(C3→C3a, C3b→C5b→C9)、膜上に膜侵襲複合体(Membrane Attack Complex:MAC)を形成し、ウイルスや病原菌を殺します。


        (本編のFig.3一部を編集引用)

この補体のシステムはマクロファージとも相互作用し、マクロファージのIL-6, TNFαらのサイトカインの産生を促し、免疫を活性化します。マクロファージ表面には、これら補体因子の受容体(CR1, CR3, CR4, C3aR, C5aR1)が存在しています。この補体因子C5aとマクロファージの反応が強すぎるとサイトカインストームの一因になると考えられます。また、新型コロナウイルスのCOVID-19では、血栓が異常に多く発生するのですが、このコレクチンMAPS複合体がFibrinogenのFibrinへの分解に関与しているという報告もあるようです。

そこで、この補体レクチン経路で重要な分岐点にいる補体因子C5aに対して、C5特異的な抗体(Eculizumab(Alexion Pharmaceuticals Inc.))を使用するという治験が開始されており、良好な結果を生みつつあるということです。若者は、自然免疫だけでウイルス排除に成功して重症化しないことが多い中、自然免疫が仇となり逆に悪化してARDSに至るケースもあるということで、自然免疫の重要な要素であるC5aに対する阻害剤の投薬タイミングには難しいものがあると推察されます。なお、Eculizumabは、発作性夜間血色素尿症(ヘモグロビン尿症)における溶血抑制を効能・効果とする処方箋医薬品であり、既に上市されているものです。

実は、SARS-CoV-2のNタンパク質に、MASPと直接相互作用するドメインが存在することが見つかってきており、SARS-CoV-2がMASPを直接活性化することで、C3以下の補体活性が促されるということも分かってきているのです。しかし、これはウイルスにとっては自殺行為なんですが(笑)。

多糖類の抗ウイルス作用については、エビデンスが希薄なものが多かったり、サプリメント的な扱いのものが多かったりするので、非常に情報が錯そうします。下記のレビューを元に、比較的評価が見えているものについて、注目される多糖類をリストにしてみました。

  • GAG:コンドロイチン硫酸、ヘパラン硫酸、ヘパリンなど
ウイルスの感染防止に有効とされる

  • キトサン:直鎖状のβ1-4GlcNAcの重合体であり、エビやカニなどの甲殻類や真菌の細胞壁から得られる
ウイルス感染防止に有効とされる

  • カラギーナン:直鎖状の硫酸化多糖類で2糖の繰り返し構造(β1-3-D-galactopyranose と α1-4-galactopyranose 或いは 3,6-anhydro-α- galactopyranose)を持ち、紅藻類から抽出される
ウイルス感染防止に有効とされる

  • フコイダン:フコースリッチの硫酸化多糖類にて、D-xylose, D-mannose, D-galactose, and D-glucuronic acidなどを含む。モズク・コンブ・ワカメ・メカブなどの海藻類から抽出される
EGFR(上皮成長因子受容体)を阻害し、ダメージを受けた肺の繊維化を抑制するとされる

  • アルギネート:β-D-mannuronic acid と α- L-guluronic acidの繰り返し構造からなる多糖類にて、褐藻から抽出される
NF-kBを刺激し、インターフェロン産生を促進するとされる

  • レンゲ多糖類(APS):伝統的な漢方で、glucose, mannose, D-glucose, D-galactoseからなる多糖類
抗HBV作用を持ち、それ自身にも殺菌作用があるとされる

  • 板藍根(RI):伝統的な漢方で、mannose, glucose, galactose, arabinose らからなる多糖類
IL-2, INFγらの産生を促進するとされる

  • レンチナン: β1-3glucan を骨格として、β1-6glucosyl を側鎖として持ち、mannosyl 或いは galactosyl基で終端されている多糖類にて、椎茸より抽出される。
TNF-α, IL-2 と IL-11を抑制し、IFN-1 と IFN-γの産生を促進するとされる



HIVウイルスは、CD4陽性リンパ球を主要な標的細胞として感染し、徐々にCD4陽性リンパ球を破壊することで、免疫力が次第に低下し、最終的に後天性免疫不全症候群(AIDS)を引き起こします。AIDSの治療には抗HIV薬を使用します。HIVに感染したCD4陽性T細胞の細胞表面の糖鎖修飾とHIV活性の関係について、おそらくWistar Instituteの下記の論文は初めてのレポートだと思われます。

レクチンマイクロアレイを用いた網羅的な比較糖鎖プロファイリング解析の結果を踏まえ、CD4陽性T細胞表面のSLex(シアリルルイスX)構造にフォーカスしています。HIVに感染し、抗ウイルス治療(ART-suppressed)を受けた患者のCD4陽性T細胞について、細胞表面に発現しているSLex量をその抗体で測定し、中央値に対して5%低下しているもの、5%上昇しているものという3群でHIVのRNA量をソートしたものが下図に示されています。加えて、HIV-ネガティブ、抗ウイルス治療、HIVウイルス血症の3群に対して、CD4陽性T細胞トータルおよびCD4陽性免疫記憶T細胞トータルにおけるSLexの発現割合をプロットしたものも示します。これらのデータは明らかに、SLexの発現とHIVのウイルス活性が相関していることを示しています。

HIV_SLex.png

























(本編のFig.1を編集して引用)


H9細胞にHIV 89.6およびNL4-3を感染させ、そのライセートから、HIV p24(HIVのカプシドタンパク質)、B4GALT5(β1-4Gal糖転移酵素)、FUT7/6(フコース糖転移酵素)、GAPDH(解糖系酵素)をブロティングした図を下記に示します。SLexを発現させるに必要な糖転移酵素がHIV感染で明らかに昂進していることが分かります。この結果から、SLexの発現が昂進しているのは、HIVのウイルス活性が高いことの直接の結果と思われます。

HIV_SLex_GlycoGene.png













(本編のFig.2を編集して引用)


遺伝子発現解析からは、SLexの発現上昇とともに、HIVの転写に関わるシグナルパスが、CD4陽性T細胞で昂進していることが示されました。具体的には、NF-kB(nuclear factor-kappa B)とNAFT(Nuclear factor of activated T-cells)の発現が昂進していました。また、Survivin(アポトーシス阻害タンパク質)ですが、SLexの発現が低い方が、逆に高くなっていました。これらの結果から、確かに、SLexの変化がHIVの転写活性に関係していることが示唆されます。感染細胞表面のSLexの糖鎖修飾の変化がどのようにT細胞の機能に関わり、HIVの感染持続に関係しているのか?については、今後の更なる研究の進展を期待したいと思います。というのも、SLlexの変化が、HIV転写活性の単なる表現系なのか?それとも更に糖鎖自身の変化がシグナルパスを刺激するのか?について非常に興味があるからです。

Chinese Academy of Medical Sciences らのグループは、SARS-CoV-2のみでなく、SARS-CoVもMERS-CoVも、細胞への感染の際に、へパラン硫酸を感染受容体であるACE2(Angiotensin Converting Enzyme 2)の共受容体として利用するのですが、その結合特性の違いを実験的に示しています(尚、MERS-CoVの感染受容体は、ACE2ではなく、DPP-4です)。

へパラン硫酸は、グルクロン酸(IdoA)とN-アセチルグルコサミン(GlcNH2)の繰り返し構造であり、硫酸化にはいくつかのバラエティーがあります。この実験では、繰り返しのユニット数は2から4にて、大まかに4種類の硫酸化パターンでアレイを作って、Cy3標識されたSARS-CoV-2, SARS-CoVおよびMERS-CoVをマイクロアレイにアプライして蛍光を測定しています。

下図に置いて、4種類の硫酸化パターンを4色で区分けしてあります。何もマーキングされていない一番左側のそれらは硫酸化されていないパターンです。
基本的には、ヘパラン硫酸に結合するという特性は、すべてのコロナウイルスに保存されていることが分かります。硫酸化の度合いは、赤丸のグループが一番高くなっており、硫酸化の度合いとパターンでアフィニティーは変化します。硫酸化によって負の電荷を帯びるので、硫酸化とともにアフィニティーが上がっているように見えるのは、その負電荷の影響とも考えられます。

面白いのは、SARS-CoV-2では、硫酸化を受けていないとアフィニティーが非常に低いのに対して、SARS-CoVとMERS-CoVは、硫酸化を受けていなくてもかなり強いアフィニティーを示し、SARS-CoV-2程は硫酸化のパターンの違いの影響は受けないという事ではないでしょうか。

SARS-MERS-HS_interactions.png







(本編のFig.4を編集)

いずれにしても、ヘパラン硫酸は感染受容体ではなく、共受容体ですので、COVID-19の治療に際しては、本命であるSARS-CoV-2と感染受容体(ACE2, DC-SIGNなどのCタイプレクチン)の結合阻害にフォーカスすべきかと思われます。

上海交通大のグループは、新型コロナウイルスSARS-CoV-2の全アミノ酸配列から、27カ所のタンパク質をpETシステム(大腸菌を用いた組換えタンパク質のクローニング・発現システム)を使って発現精製し、それをプロテインマイクロアレイとして試作しました。

このプロテインアレイに、COVID-19の患者から得られた血清サンプルをアプライし、様々な検討を行っています。その中から面白いと思われる点について、考察してみたいと思います。

下図は、SプロテインのS1領域に反応するIgGといくつかの臨床データとの相関関係を調べたものです。COVID-19に感染してからの日数、年齢、LDH(血清乳酸脱水素酵素)、リンパ球の全白血球に対する割合、そして性別になります(LDHは、肝臓機能の検査で、GOT, GTP, γ-GTPらとともに測定されるので、馴染みのある検査項目かもしれませんね)。

分かることを以下に箇条書きにしてみましょう。
  • IgGがCOVID-19に感染して一週間過ぎから徐々に立ち上がり、日数の経過とともに増加するということで、理にかなった動きをしているようです。
  • LDHは、COVID-19の重症度のマーカーになるという報告もあり、IgGとLDHが相関しているのは、まさに重症度に関係していそうです。
  • IgGは、リンパ球の割合とは逆相関しています。ウイルスに感染した場合は、一般的にリンパ球は減少します。リンパ球は通常全白血球の20から40%を占めています。リンパ球が20%以下の割合だと、感染症が重症であることを示唆しています。
  • 特に面白いのは、IgGの量が年齢と正の相関関係にあり、年齢とともに増加すること、そして男性と女性を比べると女性の方がIgGの量が多いということではないでしょうか?年齢が若いとIgGが立ち上がる前に自然免疫がウイルスを排除してしまうこと、そしてまた、自然免疫が年齢とともに弱くなることを反映しているように思われます。
  • また女性の方がIgGが多いということは、女性の方が男性より重症化しにくいということの一因であるように思われます。何故、女性の方がIgGが多くなるのか?その理由は当ブログ著者には不明です。なお、女性の方がIgMが基本的に男性より多い傾向があるということは、自然免疫に関する先のブログで記しています。

SARS-CoV-2-IgG_clinical-data.png




















(本編のFig.7から一部を引用)



NIHのグループは、COVID-19の治療法を開発するに際し、細胞表面のHSPG(ヘパラン硫酸プロテオグリカン)を介した新型コロナウイルスSARS-CoV-2の感染阻止をターゲットとし、幾つかの候補試薬を評価しています(Heparin, Tilorone, Mitoxantrone, Suntinub, BNTXなど)。

本記事においては、この中から2点に焦点を当てて、議論してみたいと思います。
(1) ACE2の存在が如何にSARS-CoV-2の感染に重要か
この課題を検証するために、SARS-CoV-2のSタンパク質とルシフェラーゼ(発光酵素)を発現するようにした偽ウイルス粒子(CoV-2 PP)を用意し、以下の細胞株に感染させ、ルシフェラーゼの発光強度をモニタリングしています。
  • Calu-3 (ヒト肺上皮細胞)
  • HEK293T
  • HEK293T(上記と同じ細胞種だがACE2-GFPを発現するようにした細胞株)
下図で縦軸のスケールの違いを見逃さないようにお願い致します。Calu-3とHEK293Tには大きな差異は認められないのですが、ACE2-GPFを発現しているHEK293Tでは、CoV-2 PP + にて大きく発光強度が上昇し(約170倍)、ACE2の存在で感染が大きく加速したことが分かります。感染受容体としては、やはりACE2の存在はとても大切です。

CoV2-PP_calu-3_293T.png












(本編のFig.S1から一部を引用)

(2) 細胞表面のHSPGは、ACE2の共受容体として機能する
細胞表面のHSPGの役割については、HSPGがSARS-CoV-2を細胞表面にリクルートすることで、ウイルスの細胞表面での濃度が上昇し、ACE2への感染を加速するということが基本認識になっています。つまり、HSPG自体は感染受容体ではなく、ACE2に対する共受容体として機能しているということです。このHSPGとSARS-CoV-2との相互作用をヘパリンで阻害できるかどうかについての検証結果が下図です。ACE2-GFP HEK293Tの方がCalu-3よりも阻害効果はかなり低くはなっていますが、ヘパリンの阻害効果はいずれにおいても観測されています。ACE2-GFP 細胞の方がCalu-3より阻害効果が小さいのは、そもそもACE2の濃度(密度)が高いこともあり、直接SARS-CoV-2がACE2へ結合することをヘパリンは阻害できないからだと考えられます。ヘパリンの阻害効果を過大評価すべきではないと思います。ヘパリンだけでなく他のGAG(Glycosamino Glycan)でも程度の差はあれ、同様な効果は期待できると思いますが、阻害効果と副作用のトレードオフの見極めが必要です。
CoV2-PP_Entry_Calu-3_293T.png












(本編のFig.1より一部を引用)

如何にSARS-CoV-2の感染受容体への感染を阻害するか?この命題は治療薬として最も基本的ですが、いろいろな方法論が考えられそうです。

Harvard Medical Schoolらのグループは、新型コロナウイルスのCOVID-19において、男性の方が女性よりも致死率が1.7倍高いという事実について、その要因として女性ホルモンであるエストロゲンに注目しています。

男性ホルモンであるテストステロン(アンドロゲンに属するステロイドホルモンの1種)が、ACE2(angiotensin converting enzyme 2)やTMPRSS2(transmembrane serine protease 2 )の発現・制御に関わっているということもあり、男性の方がそもそもアンドロゲンの影響でACE2の発現が女性よりも高いということが、男性の致死率が女性より高いということの一因であろうと述べられています。

女性ホルモンであるエストロゲンがこの問題にどのように関わっているか?ということを解明するために、2種のエストロゲン分子(17β-diol, S-equol)が、新型コロナウイルス SARS-CoV-2のSタンパク質とACE2の相互作用に与える影響について、分子動力学的シミュレーションからGibbs freeエネルギーを計算し、結合構造の安定性を議論しています。その結果として、エストロゲンがSARS-CoV-2のACE2への結合を阻害することが示されています。合わせて、lung control cell(DMSO)に対して、これらエストロゲンで処理した場合の効果について、SARS-CoV-2とACE2のELISAアッセイの実験結果も示しています。エストロゲンがSARS-CoV-2とACE2の結合を阻害することが、in vitroの実験でも確認されています(下図参照)。

estrogen.png




















(本編よりFig.5aを引用)

興味深い派生的な推論ですが、致死率が日本や韓国で低い原因には、イソフラボン類の食品を多く食べているという生活習慣が関係しているのではないか?というそれがあります。ご存知のように、イソフラボンはエストロゲン(女性ホルモン)様の作用を有するとされています。ファクターXには、BCG仮説もありますが、これも含めて、仮説としてのイソフラボンなど、幾つかの要素が関係した相乗効果と考えるのが自然かも知れません。



ノーベル物理学賞を受賞したAFM(原子間力顕微鏡)を覚えていらっしゃいますでしょうか?このAFMを使って、COVID-19の新型コロナウイルスであるSARS-CoV-2のSタンパク質と感染受容体であるACE2の相互作用を研究した仕事があります。

AFMのカンチレバーにSタンパク質(RBD)を固定、基板にACE2を固定して、AFM測定を行います。AFMの短針をACE2に押し付けて接している状態から離していった時に(1→2→3→4と遷移)、3から4の状態に遷移するときに大きなジャンプFuが現れ、これが結合を外すに必要な力となります。SARS-CoV-1(赤い実線)とSARS-CoV-2(青い実線)を比較すると、明らかにSARS-CoV-2の方がSARS-CoV-1よりもACE2に対してより強く結合することが分かります(下図の左下参照)

この状態で、PNGase Fを使って、ACE2のN型糖鎖を切断したらどうなるか?糖鎖を切断したACE2とSARS-CoV(青および赤の破線)と wildのACE2とSARS-CoV(青および赤の実線)の比較では、糖鎖を切断するとSARS-CoVとACE2の結合力が弱くなっているのが分かります(下図の右下参照)。糖鎖修飾があるACE2の方がSタンパク質に強く結合する、これは面白い発見です。

afm_ace2-s.png


















(本編のFig.1 Fig.3から一部を引用)

Biologicalな分子間相互作用の評価にAFMを用いる、とても斬新な研究ではないでしょうか。


COVID-19に対する治療薬はまだないのが現状です。そんな中、中国では、当局が「Lung Cleansing and Detoxifying Decoction:清肺排毒湯」と名付けられた漢方をCOVID-19の治療に推奨しているとのことです。

この漢方の成分は、多糖類になります。多糖類が新型コロナウイルスでも何かしらの効果を発揮するというのは、先のブログで紹介したようなCタイプレクチンとSARS-CoV-2との相互作用を阻害する効果があるからなのかも知れません?

漢方.png
























(本編のFig.1を引用、薬草名を日本語に変更)

今更漢方、されど漢方。煎じて飲むということで、水溶性の多糖類が主成分になるという事も納得です。個々の多糖類がどのような薬効薬理・作用機序を持っているのか?詳細な研究が待たれます。

金沢大学附属病院漢方医学科より、本件に関する論説記事を偶然みつけましたので、下記に参照させて頂きます。


Harvard Medical Schoolらのグループは、新型コロナウイルスSARS-CoV-2は、ACE2以外に、多様な糖鎖関連の受容体(MR, DC-SIGN L-SIGN,  MGL/CLEC10Aら)を介して感染することを実証しました。

Cタイプレクチン受容体(CLR)は、Ca2+依存性のレクチン群であり、DC-SIGN/CD209, L-SIGN/CD209L/CLEC4M, MR/MRC1/CD206, MGL/CLEC10A/CD301, Dectin-2/CLEC6Aなどが知られており、単球、樹状細胞、マクロファージらを含んで免疫細胞に広く発現しており、自然免疫の第一線にいます。

臨床面からしても、SARS-CoV-2に感染したヒトの80%以上は、リンパ球減少症を示し、全身性の炎症マーカーである好中球-リンパ球比も上昇、気管支肺胞洗浄液中には異常に活性化したマクロファージが存在すること、などの事象からして、これら免疫細胞が新型コロナウイルスの感染を受けていることが示唆されます。

Fcが融合されたCLRとHEK293で発現させたSARS-CoV-2を用いてElisaアッセイを行った結果が下図に示されています。参照にACE2を用いた結果も示されています。ACE2よりはアフィニティーは低いですが、DC-SIGN, L-SIGN, MR, MGLらが数百pMオーダーの濃度で強く反応していることが確認されました。なお、Dectin-2は反応しなかったとのことです。

CLRs_Elisa_assay.png















(本編のFig.1 g~fを参照)

  • DC-SIGN, L-SIGNは、High mannose およびComplex型N型糖鎖に結合
  • MRは、High mannoseのみに結合
  • MGLは、N型糖鎖にも結合するが、O型糖鎖に結合するのが特徴
とされています。

VERO E6細胞にSARS-CoV-2を感染させ、感染後24時間のライセートをWestern blotに掛けた例が下図に示されています。
Sタンパク質の抗体(Anti-S:1A9)もコントロールとして含まれています。
  • mock: 模擬感染 VERO E6 ライセート
  • SARS-CoV-2: VERO E6にSARS-CoV-2を感染させたもののライセート
  • SN(2X), (20X): SARS-CoV-2を含む培養上清液
  • Spike: Sタンパク質をコントロールとして使用
Anti-S, DC-SIGN, L-SIGN, MRでは、SARS-CoV-2のレーンでSタンパク質が検出されています。何故かMGLでは対応するバンドが検出されていませんが、使用する細胞によって糖鎖修飾は異なるので、その結果と考えられます。

CLRs_western.png



















(本編のFig.3 f~jを引用)

これらのことから、SARS-CoV-2の感染経路には多様性があり、従って、COVID-19の治療方法にもいろいろなオプションがあるはずと結論しています。


UC Davisのグループは、COVID-19の新型コロナウイルスであるSARS-CoV-2を中和・排除するために、感染受容体であるACE2(Angiotensin Converting Enzyme 2)とIgGのFc部分を融合させたACE2-Fc 融合タンパク質を使うことを提案しています。

ace2-fc.png


















(本編のFig.1を引用、ACE2-Fc 融合タンパク質がSARS-CoV-2のSタンパク質に結合し、感染を阻止する。中和化されたウイルスは、Fcを介してそのエフェクター機能によって排除される。)

本論文は、分子動力学を使ったシミュレーションのみですが、ACE2も新型コロナウイルスのSタンパク質も糖鎖修飾を強く受けていることから、ACE2-Fcバリアントの分子設計に際して、糖鎖もきちんと組み込んでシミュレーションしていることがとても評価されます。

糖鎖の構造としては、しかしながら、すべてを網羅的に組み込んでいるわけではなく、ハイマンノース(M8構造)と二分岐agalacto構造が使われています。ミュレーションに使われているACE2-Fc バリアントの一例が下図です。すべての分子構造とシミレーション結果はOpenとのことです。
ace2-fc_variant.png


















(本編のFig.2を引用、SpFrは、glycosylated Spike protein Fragmentの略)

しかし、この方法を使うと、アンジオテンシンII周りで副作用が起こりそうな気がしますが、これは当ブログ筆者だけでしょうか?

台湾アカデミア・シニカのグループは、フジマメから抽出したレクチンFRILがインフルエンザウイルス(H1N1, H2N2, H5N1, H7N9)の中和に有効であることをin vitroでもin vivoでも実証しました。

「hyacinth bean」の画像検索結果 
(フジマメ)

FRILは、Complex 型の N型糖鎖に結合特異性を持ちます。FRILのin vitroでのH1N1インフルエンザウイルスの中和性能を下図左に示します。また、マウスを使ってのin vivoでの感染後の生存率を下図右に示します。マウスには、FRILを二回/日、鼻腔へスプレーしています。in vitro実験では、FRILの中和性能をインフルエンザウイルスに対する抗体Fl6と比較していますが、抗体と同等な効果を示しています。in vivo実験では、インフルエンザウイルスの中和により、感染後の生存率が著しく改善していることが示されています。

(本編のFig.2より引用)

COVID-19の新型コロナウイルス SARS-CoV-2に対するFRILのアフィニティーは、下図に示すように十分高く、インフルエンザウイルスと同様に、SARS-CoV-2をFRILで中和できる可能性があります。SARS-CoV-2に対する詳細な検討は現在進行中とのことですが、FRILの用い方としては、マスクにコーティングする、密な場所でのエアロゾルミストに使用する、というような方法が提案されています。吸入器に使うような用途では十分な臨床検査が必要です。
(本編のFig.7より引用)

Sタンパク質は、ヒトの免疫系を逃れるために糖鎖を身にまとう。その糖鎖を逆手に取ってコロナウイルスに戦いを挑みましょう・・・・・。


6月下旬以降、東京から始まった感染第二波、遺伝子が3か月分ほど(6塩基分)変異しているとのこと。どこがどう変異したのか?遺伝子配列の情報が欲しいですね。
この手のウイルスに、ワクチンはそもそも開発できないのでは?

covid-19_after June.png


















(朝日新聞デジタルより引用:https://www.asahi.com/articles/photo/AS20200806001627.html

Lyon大学病院らのグループから、COVID-19の急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に関する免疫病理の概要がレビューされていましたので、掻い摘んで要点を整理してみようと思います。

  1. SARS-CoV-2は、ACE2への結合をきっかけとして上皮細胞へ感染を開始する
  2. ウイルス感染によって肺組織細胞のアポトーシスが誘導され、肺組織が損傷を受けることで大量のケモカインが産生され、大量の免疫細胞が肺へ遊走される
  3. 樹状細胞やマクロファージは、インターフェロン(type I IFN)を産生し、ウイルスの増殖を止めようとする
  4. 同時に、樹状細胞やマクロファージに発現しているToll様受容体らがウイルスの侵入を察知することで、転写因子であるNF-kBが活性化され、免疫活性化のサイトカインであるIL-1β、IL-6、IL-18 、そしてまたTNFαが放出される
  5. T細胞がTh1に形質変化し、INFγを産生してマクロファージを更に活性化する
  6. T細胞はCTLs、CD8+にも形質変化し、感染細胞を排除しようとする
  7. マクロファージは、更にインフラマソームも活性化し、IL-1β、IL-18の分泌を促進して、血球貪食性リンパ組織球症(HLH)を誘発する
  8. 樹状細胞やマクロファージは、抗炎症性サイトカインも分泌し、免疫のバランスを保とうとするものの、バランスが崩れて正のフィードバックがかかり、サイトカインストームが発生し、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に至る
上記のレビューでは、特に糖鎖は明示的に示されてはいないのですが、マクロファージには、Toll様受容体以外に、抗原プロセッシングや抗原提示に関わる各種のエンドサイトーシス受容体(CLEC4A, DC-SIGN, MGLら)が存在します。これら受容体は、ハイマンノースやGal/GalNAcといった糖鎖抗原と深い関係を持っており、上記の4のマクロファージによる免疫活性化のプロセス周辺で大きく全体に関わっていると考えられます。

また、先の記事で解説したように、ACE2以外の感染経路も無視できず、上記の1の感染開始プロセスでも糖鎖が関わっている可能性は大いにあります。

COVID-19_CytokineStorm.png





















(本編のFig.2を引用)

COVID-19において特徴的な現象には次が知られています。
(1)重症化率が年齢とともに上昇する
(2)女性より男性が重症化しやすい
(3)O型のヒトはA型のヒトよりも重症化しにくい

Charité大学医学部らのグループは、これらの現象は糖鎖が絡んだ自然免疫の結果のようだと推察しています。

ウイルスの感染初期においては、特に未知のウイルスの場合には、自然免疫が大きな役割を果たします。この自然免疫で大きな役割を果たすのが、IgMとMBL(マンノース結合レクチン)です。

IgMは、感染には無関係に、生後急速に立ち上がり、5歳から10歳で大人の値にまで達します。ところが、下図のように、抗糖鎖IgMは、年齢とともに減少します。
更に、男性と女性を比べた場合には、この抗糖鎖IgMは、女性の方が多くなります。
(本編のFig.2を引用、anti-glycan IgM は年齢とともに減少)

一方、MBLは、ウイルスなど病原菌が持つマンノース構造を認識し、レクチン補体経路を活性化して病原菌を排除する自然免疫の重要な構成要素です。しかし、このMBLも3歳から19歳で、すでに大人の値を超えていて、20歳を過ぎると年齢とともに減少していきます(図はなし)。また、MBLはSARS-CoV-2に発現しているマンノースに結合し、ACE2(Angiotensin Converting Enzyme 2)への感染を押さえるという効果もありそうです。

O型のヒトがA型のヒトよりもSARS-CoV-2に抵抗性を示すのは、抗A抗体の存在だと考えられます。

暴露したウイルスの総量によっても当然病態進行の流れは異なってくるのですが、SARS-CoV-2の場合には、自然免疫が大きな役割を果たしており、自然免疫の重要な構成要素であるIgMやMBLが多い若年層が、感染に対して強い抵抗力を持ち、自然免疫が弱くなっている高齢者や、高齢者でも男性の方が女性より重症化しやすいという話のようです。

この初期の自然免疫によるSARS-CoV-2の撃退に失敗した後、サイトカインストームを引き起こすまでのストーリーは、ケースバイケースで複雑です。
ともあれ、この論文は、自然免疫の重要性を教えてくれているようです。